AI時代に、デザイン会社が担う仕事とは?
近年、広告・デザイン業界は大きな転換期を迎えています。
その変化を象徴するデータがあります。
東京商工リサーチの調査によると、2026年上半期(1~6月)における「デザイン業」の倒産は40件。前年同期比で166.6%増加し、2012年上半期以来、14年ぶりに40件を超える高水準となりました。
東京商工リサーチは、その背景として、生成AIの普及やデザインソフトの浸透に加え、顧客企業によるデザイン業務の内製化などを挙げています。

【出典】 東京商工リサーチ TSRデータインサイト AIの広がりも影響、「デザイン業」倒産が14年ぶり高水準 ~ 2026年上半期は40件に急増 ~
実際、これまでデザイン会社に依頼していたバナーやチラシ、SNS画像などを、生成AIやCanvaなどを使って社内で制作する企業は増えています。
では、AIによってデザイン会社の仕事はなくなってしまうのでしょうか。
私たちは、そうは考えていません。
むしろ、AIによって「デザイン会社に求められる仕事そのものが変わっていく」と考えています。
これからのデザイン会社に求められるのは、単に「デザインを作ること」ではありません。
企業の強みを整理し、何を、誰に、どのように伝えるのかを考え、それを成果につながる形へ設計すること。
つまり、これからのデザイン会社は、「制作を代行する会社」から「企業の伝える力を設計する会社」へ変わっていくのではないでしょうか。
なぜ企業はデザインを「内製化」するのか
生成AIの普及によって、企業が自社でデザインを作るメリットは確実に大きくなっています。
制作スピードが上がる
AIを活用すれば、バナーやSNS画像、広告のデザイン案などを短時間で作ることができます。
これまで外部に依頼していた「ちょっとした修正」も、自社ですぐに対応できるようになります。
「作って、試して、改善する」というサイクルを早く回せることは、企業にとって大きなメリットです。
特にWeb広告やSNSでは、ひとつの完成形を作って終わりではなく、反応を見ながら改善していくことが重要です。
AIによって制作のスピードが上がれば、こうした検証そのものを早く進めることができます。
制作コストを抑えられる
これまで外注していた簡単な制作物を社内で作れるようになれば、当然ながら制作コストも抑えられます。
浮いた予算を広告配信やマーケティング、分析、コンテンツ制作など、より成果に近い部分へ回すこともできます。
「作るために使っていた予算」を「届けるための予算」に変えられる。
これは、企業にとって非常に大きな変化です。
誰でもデザインを扱えるようになる
AIやCanvaのようなツールによって、これまでデザイナーにしかできなかった作業の一部を、営業担当や広報担当などでも行えるようになりました。
例えば、営業担当者がその日の商談で聞いたお客様の悩みをもとに、すぐに提案資料や販促画像を作る。
広報担当者がSNSの投稿に合わせて画像を制作する。
こうしたことが、以前より簡単にできるようになっています。
これは単なる業務効率化ではありません。
デザインという表現手段が、専門職だけのものではなくなってきたということです。
こうした「デザインの民主化」は、企業の実行スピードを高める大きな力になります。
しかし、「作れる」と「伝わる」は同じではない
ここで、一つ考えておきたいことがあります。
AIを使えば、見た目の整ったデザインを短時間で作ることができます。
しかし、
「完成したデザイン」と「成果が出るデザイン」は同じではありません。
例えば、「目立つバナーを作る」ことと、「問い合わせにつながるバナーを作る」ことは違います。
「会社案内をきれいに作る」ことと、「この会社に相談してみたいと思ってもらえる会社案内を作る」ことも違います。
デザインの仕事は、単に見た目を整えることではありません。
本来の目的は、
必要な情報を、必要な相手に、適切な形で伝え、最終的な行動につなげること
にあります。
AIは、与えられた情報をもとに、文章や画像、デザイン案を作ることができます。
しかし、
「なぜこの会社が選ばれているのか」
「お客様は何に不安を感じているのか」
「競合ではなく、自社を選ぶ理由は何なのか」
といったことを、企業との対話や現場の情報から整理していく作業まで、すべて自動的に行ってくれるわけではありません。
例えば、外壁塗装やリフォームのWebサイトを作るとします。
AIに「きれいな家と笑顔の家族の写真を使ったデザインを作って」と指示することは簡単です。
しかし、お客様が本当に知りたいのは、
「なぜこの会社に任せるべきなのか」
「他社と何が違うのか」
「どこまで対応してくれるのか」
「予算はいくらなのか」
「安心して任せられる会社なのか」
ということです。
つまり、AIが「作る」ことを得意とするほど、人間には「何を作るべきなのか」を考えることが求められるようになります。
AI時代に、デザイン会社が担う3つの仕事
では、これからデザイン会社にはどのような役割が求められるのでしょうか。
私たちは、大きく3つあると考えています。
1.企業の強みを引き出し、「何を伝えるか」を設計する
デザイン会社の仕事は、パソコンを開いてデザインを始めるところからスタートするわけではありません。
本当のスタートは、「何を伝えるべきなのか」を考えることです。
例えば、
「なぜ、お客様は数ある会社の中から御社を選ぶのでしょうか?」
「問い合わせをする前に、お客様は何に不安を感じているのでしょうか?」
「競合他社と比べたとき、御社にしかない強みは何でしょうか?」
こうした問いを通じて、企業の中にある価値を整理していきます。
自社では当たり前だと思っていたことが、お客様にとっては大きな魅力であることもあります。
反対に、企業側が強みだと思っていることが、お客様にはそれほど伝わっていないこともあります。
だからこそ、企業のことを知り、顧客のことを考え、目的を整理する。
そのうえで、
「誰に」
「何を」
「どんな言葉で」
「どの順番で」
「どんな行動につなげるのか」
を設計していきます。
AIは、決められた方向性に沿って文章やデザインを作ることはできます。
しかし、そもそも「何を伝えるべきなのか」を決めることには、企業への理解や顧客への理解が必要です。
デザイン会社が提供する価値は、単なる制作物ではありません。
企業の中にある価値を見つけ、それを「伝わる形」に変換すること。
その上流工程こそ、これからのデザイン会社に求められる重要な役割です。
2.ブランドの軸をつくり、社内で一貫した発信を支える
AIやデザインツールによって、社内の誰もが簡単に制作できるようになることは、大きなメリットです。
一方で、誰でも自由に作れるようになると、新たな問題も生まれます。
「担当者によってデザインの雰囲気が違う」
「SNSとWebサイトで会社の印象が違う」
「キャンペーンをするたびに色や言葉遣いが変わる」
といった問題です。
そこで必要になるのが、「自社らしさ」の基準です。
例えば、
- どのような色を使うのか
- どのようなフォントを使うのか
- 写真はどんな雰囲気にするのか
- どのような言葉遣いをするのか
- 自社らしいデザインとは何なのか
- AIを使う場合に何を守るべきなのか
といったルールを整理しておく。
これは、企業にとっての「デザインの共通言語」をつくることでもあります。
これからは、企業がAIを使って自分たちで制作する場面も、さらに増えていくでしょう。
だからこそデザイン会社には、すべての制作物を自分たちで作るだけではなく、企業が自分たちで制作しても「その会社らしさ」を保てる環境を整えることも求められます。
AIによって制作が民主化されるほど、ブランドの軸をつくることの重要性は高まっていくはずです。
3.AIが生み出したものを、成果につながる形まで仕上げる
AIが作ったデザインは、一見すると完成度が高く見えることがあります。
しかし、実際にWebサイトや広告として使ってみると、
- 文字が小さくて読みにくい
- 情報の優先順位が分からない
- どこを見ればいいのか分からない
- スマートフォンでは操作しづらい
- 問い合わせまでの導線が分かりにくい
- 企業のブランドイメージと合っていない
といった問題が見つかることがあります。
こうした小さな違和感の積み重ねが、
「伝わらない」
「信頼されない」
「行動につながらない」
という結果につながります。
だからこそ、AIが作ったものをそのまま使うのではなく、目的や媒体、見る人の視点から確認し、必要な修正を加えることが重要です。
どの情報を最も目立たせるのか。
どこで興味を持ってもらうのか。
どこで不安を解消するのか。
そして、最後にどんな行動を取ってもらうのか。
こうした「伝わるための設計」と「最後の仕上げ」を担うことも、これからのデザイン会社の重要な仕事になります。
これからのデザイン会社は、「作る会社」から「考える会社」へ
AIによって、デザインを「作る」こと自体は、これまでより簡単になりました。
それは、デザイン会社にとって脅威であると同時に、大きな可能性でもあります。
これまで時間をかけていた制作作業をAIに任せることで、私たちはもっと上流の仕事に時間を使えるようになるからです。
「何を伝えるべきなのか」
「誰に伝えるべきなのか」
「なぜ、この会社が選ばれるのか」
「どうすれば、お客様の行動につながるのか」
そうしたことを考え、整理し、最適な形に落とし込んでいく。
これからのデザイン会社には、こうした役割がより強く求められるのではないでしょうか。
AIが10案のデザインを作ったとしても、その中から「この企業には何が最適なのか」を判断する必要があります。
AIが文章を作ったとしても、その言葉が本当に企業の価値を表しているのかを確認する必要があります。
AIが画像を生成したとしても、その表現がブランドにふさわしいのか、権利面を含めて問題がないのかを確認する必要があります。
実際、東京商工リサーチも、AIによって生成されたものについては、権利面を含めた確認が欠かせないと指摘しています。
つまり、AIによって「作ること」のハードルが下がったからこそ、
「何を作るのか」
「なぜ作るのか」
「それをどう活かすのか」
を考えることの価値は、むしろ高まっていくのです。
AIを使う時代だからこそ、人間が考える

これから、企業がAIを活用して自社でデザインを制作することは、当たり前になっていくでしょう。
それ自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、企業自身がスピーディーに情報を発信できるようになることは、大きなメリットです。
私たちも、AIを「デザイン会社の仕事を奪うもの」として捉えるのではなく、制作を効率化し、より良いデザインやコミュニケーションを考えるための道具として活用していくべきだと考えています。
その一方で、AIに任せればすべてが解決するわけでもありません。
企業の強みを見つけること。
お客様の悩みを理解すること。
伝えるべき情報を整理すること。
ブランドの軸をつくること。
そして、最終的な表現に責任を持つこと。
こうした部分には、これからも人間の判断が必要です。
だからこそ私たちは、AI時代のデザイン会社を、単に「デザインを作る会社」ではなく、企業の価値を見つけ、それを世の中に伝わる形へ変えていく会社だと考えています。
AIと「作る」ことを伴走できる時代になったからこそ、私たちは「何を作るべきか」「なぜそれを作るのか」から考える。
単なる制作業者ではなく、企業の「伝える力」を一緒につくっていくパートナーへ。
それが、これからのデザイン会社に求められる役割であり、私たち株式会社ジキヤが目指していきたい姿です。
